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脱線事故5年 思い出の地の砂を長男手作りの茶碗に 遺族の菅尾さん(産経新聞)

 長男の会社員、吉崇(よしたか)さん=当時(31)=を亡くした菅尾美鈴さん(61)はこの日早朝、神戸市東灘区の自宅の居間にある遺品を並べた棚の前に座った。

 目の前には美鈴さんの誕生日にプレゼントされた吉崇さん手作りの淡いグレーの茶碗(ちゃわん)。茶碗に家族旅行で訪れた淡路島や、吉崇さんが留学していた米サンフランシスコで集めた砂を入れた。そして笑顔の遺影。

 茶碗に吉崇さんが好きだった香の「ホワイトムスク」をくべた。部屋中に甘く優しい香りが広がった。「天国のあの子に届きますように」。吉崇さんの優しい笑顔を思い浮かべ、静かに手を合わせた。その後、脱線事故の現場に花を手向けにむかった。

 美鈴さんが砂を集め始めたのは2年ほど前。天国で寂しい思いをさせたくないと感じたからだった。家族旅行で訪れた淡路島、近くの神戸・六甲山、サンフランシスコ…。遠方の友人の協力もあり、思い出の地の砂は15カ所にのぼった。

 砂を入れた茶碗は、吉崇さんが留学中だった14年前、陶芸好きの美鈴さんの誕生日に贈ったものだ。その後も居間で大切に飾り続けた。吉崇さんも帰国した際、「大事に飾ってくれてるんや」と喜んだという。

 しかし、いつものように出勤した息子は、冷たくなって帰ってきた。「まさかこんな形で茶碗が使われるとは。あの子も夢にも思っていなかったでしょう」。美鈴さんは茶碗を見つめ、複雑な表情を浮かべた。

 この春、大きな決断をした。5年間手放すことのできなかった遺骨を先月、霊園の桜の木の下に埋める「桜葬」で納骨した。「あの子らしい形で弔ってあげたい」と考え抜いた末のことだった。納骨を終えた今は寂しさと、「やっと眠らせてあげることができた」という安堵(あんど)とが交錯する。

 5年の日々は、現実を受け入れようとする間に過ぎた。たとえ10年が経とうとも、悲しみやつらさは決して消えないと感じる。でも、桜の木の下からいつも吉崇さんが見てくれていると思い、懸命に前を向いて歩いていくつもりだ。

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